ブレーキパッド残量4mmは交換すべきか|車検で言われた時の判断

アルトHA36Sの摩耗したブレーキローターとアイキャッチ文言。新品10mm・限度値2mmに対して実測4mm タイヤ・足回り
📅最終更新 2026年9月7日(4日前)/公開 2026年9月4日
ブレーキ

  1. ブレーキパッド残量4mmは交換すべきか
  2. 車検で入庫したアルトHA36S・走行12万km
  3. まず数字を確認する|4mmは「まだ使える」
    1. この車のパッドは「2回目」だった
    2. あと何km走れるか計算してみる
    3. この計算、あなたの車でもできます
    4. 🛑 ブレーキパッド残量・寿命予測ツール
  4. 交換した本当の理由はローター側にあった
    1. 外側の錆が意味すること
    2. パッドは2回目、ローターは1枚目
    3. 「ローターを換えるなら、パッドも一緒に」が正しい
    4. アルトHA36S用 ブレーキパッド+ローターセット
  5. 残量が半分を切ったパッドで起きること
    1. パッドの中身は一枚板ではない
    2. 摩擦材の剥離について(正確なところ)
  6. 車検はパッド残量では合否が決まらない
    1. 逆に、限界まで放置するとこうなる
  7. アルトHA36Sの実作業|ローターの外し方にコツがある
    1. 固着したローターはボルトで押し出す
    2. キャリパーは必ず吊る
    3. 新品パッドはTOKICO製
    4. 新品ローターは防錆塗料を落としてから
    5. 規定トルクで締め付ける
    6. 85N·mまで測れるトルクレンチ
  8. 整備書が禁止していること
  9. 結局、何mmで交換すればいいのか
    1. 残量だけで決めない
  10. 自分でパッド残量を確認する方法
    1. ホイールの隙間から覗く
    2. 見るときの3つの注意点
    3. 整備工場で聞くべきこと
  11. よくある質問
    1. Q. ローターは研磨して再使用できないの?
    2. Q. 前と後ろ、同時に交換すべき?
    3. Q. 交換した直後に鳴くのはなぜ?
    4. Q. 交換後に慣らしは必要?
    5. Q. 社外品のパッドでも大丈夫?
    6. Q. アルトHA36Sで他に気をつける整備は?
  12. DIYで作業する前に
    1. 法律上の位置づけ
    2. 安全に関わる注意
  13. まとめ
    1. 整備士 nao(ナオ)

ブレーキパッド残量4mmは交換すべきか

車検で指摘されたときの判断基準|アルト(HA36S)12万kmの実車で解説

※本記事は商品プロモーション(アフィリエイト広告)を含みます。楽天市場・Yahoo!ショッピングの広告を掲載しています。

車検の見積もりに「ブレーキパッド交換」と書かれていて、こう思ったことはないでしょうか。

「まだ4mmも残ってるのに、本当に換える必要あるの?」

その感覚は間違っていません。実際、パッドの限度値は2mm前後の車が多く、4mmならまだ限度の2倍あります。数字だけ見れば「まだ使える」で正解です。

今回は、車検で入庫したスズキ アルト(HA36S・走行12万km)のブレーキパッドを、残量4mmの段階で交換しました。まだ使えるのに、なぜ換えたのか。

結論を先に言うと、換えた理由はパッドではなくローター側にありました。整備書の数値と実車の写真で、その判断の中身を全部お見せします。

この記事でわかること

・ブレーキパッドの残量は何mmで交換すべきか(整備書の基準値と限度値)
・「まだ使える」パッドを交換する合理的な理由
・ブレーキローターは意外なほど摩耗代が小さいという事実
・残量が半分を切ったパッドで起きること
・アルトHA36Sの実作業手順と規定トルク

車検で入庫したアルトHA36S・走行12万km

今回の車両はスズキ アルト(HA36S)。車検での入庫で、点検の結果ブレーキまわりに交換をおすすめする状態が見つかりました。

項目 内容
車種・型式 スズキ アルト HA36S
走行距離 約120,000km
入庫理由 車検
パッド残量 約4mm
パッド交換歴 今回で2回目(前回はパッドのみ交換)
ローター交換歴 なし(12万km 1枚目)
ローターの状態 外周に段差、外側に錆
施工内容 フロントブレーキパッド+ブレーキローター交換
アルトHA36Sのフロントブレーキ。ローター外周に段差ができ、外側とハブに錆が出ている状態
入庫時のフロントブレーキ。ローターの外周に段差ができ、外側とハブに錆が出ています

写真を見てください。ローターの外周部分ハブまわりが茶色くなっています。これが今回の判断を決めた材料です。

まず数字を確認する|4mmは「まだ使える」

感情論を抜きにして、整備書の数値から確認します。

HA36Sのフロントブレーキパッドについて、メーカー整備書はこう定めています。

項目 意味
基準値(新品時) 10 mm 新品パッドの摩擦材の厚さ
限度値 2 mm これを下回ったら交換
今回の実測 約4 mm 限度値の2倍・まだ余裕がある

整備書は「限度値以下、または著しい片減りがある場合は1台分セットで交換」としています。

つまり4mmという数字だけを見れば、限度値には達していません。「まだ使える」というお客様の感覚は、数字の上では正しいのです。

この車のパッドは「2回目」だった

ここで見落としてはいけない事実があります。

今回のパッド交換は、この車にとって2回目です。走行12万kmまでの間に一度交換されており、そのときはパッドのみの交換でした。

つまり、いま4mmまで減っているパッドは、新車から12万km分を減ったのではありません。前回の交換以降に減った分です。

この違いは、残りの寿命を見積もるうえで決定的です。

あと何km走れるか計算してみる

12万kmで2回目の交換ということは、パッド1セットでおおよそ6万km前後を走ってきた計算になります。

新品10mmから4mmまで、6mm減るのに約6万km。単純に割ると1万kmあたり約1mmのペースです。

限度値2mmまで残り2mm。このペースならあと2万kmほどということになります。年間1万km走る使い方なら、ちょうど次の車検(2年後)で限度値に届く計算です。

⚠️ しかもこの計算は楽観的です。ブレーキパッドの摩耗は、後半になるほど早くなります。ブレーキパッドメーカーのディクセルも「摩耗の進行が早まります」と説明しています。均等に減る前提の計算より、実際はもっと早く限度に達します。

「4mmもあるじゃないか」と感じる数字が、実は次の車検までギリギリ、あるいは届かない。これが摩耗ペースを踏まえた実際のところです。

この計算、あなたの車でもできます

いま行った計算を、自分の車の数字で試せるツールを用意しています。

点検で聞いた現在の残量走行距離を入れるだけで、摩耗ペースと交換時期の目安が出ます。前回測定時の残量と走行距離を入れれば、今回のアルトのように「2回目のパッド」でも正確に計算できます(空欄なら新品からの計算になります)。

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そしてもうひとつ、もっと大きな理由がありました。

交換した本当の理由はローター側にあった

ここが今回の記事でいちばんお伝えしたい部分です。

ブレーキローターにも、パッドと同じように「新品時の厚さ」と「限度値」が決められています。HA36Sの数値を見てください。

部品 新品時 限度値 使える幅
ブレーキパッド 10 mm 2 mm 8 mm
ブレーキローター
12インチ ソリッド
10 mm 9 mm わずか 1 mm
ブレーキローター
13インチ ベンチレーテッド
17 mm 15 mm 2 mm

パッドは8mm使えるのに、ローターは1mmしか減らせない。

この差に驚かれたのではないでしょうか。

ブレーキローターは分厚い金属の円盤に見えますが、削っていい量はほんのわずかなんです。12インチのソリッドディスクなら、新品10mmに対して限度は9mm。両面合わせて1mmしか余裕がありません。片面あたり0.5mmという計算になります。

厚さが限度を下回ると、ローターは熱に耐えられなくなります。放熱できる質量が足りなくなり、割れや変形のリスクが上がるためです。

外側の錆が意味すること

今回のローターは、外周部分と外側の面に錆が出ていました。

ブレーキローターのうち、パッドが当たる範囲は常に磨かれるので錆びません。錆びるのはパッドが当たらない外周や裏側です。ここに錆が育つと、次のような問題が起きます。

1. 外周に段差ができる
パッドが当たる部分だけが削れて薄くなり、当たらない外周は錆びて盛り上がります。この段差が大きくなると、新品パッドを組んだときに外周の段差にパッドが乗り上げて、正しく当たらなくなります。

2. 錆が進行して面がやせる
錆は表面を削っていきます。放置するほどローターの実効的な厚みは減っていきます。

3. 錆びた面がパッドを削る
ざらついた面は研磨紙のようにパッドを削ります。新品パッドの寿命が短くなります。

そして決定的なのが、ローターの摩耗代は1mmしかないという事実です。錆と摩耗で1mm減ってしまえば、それで終わりです。12万km走った時点で、この車のローターはすでに使い切りに近い状態でした。

パッドは2回目、ローターは1枚目

ここで、さきほどの「2回目の交換」という事実がもう一度効いてきます。

この車は12万kmの間にパッドを2セット使い、前回はパッドのみを交換しました。ということは、ローターは新車から一度も交換されていない、1枚目ということです。

整理するとこうなります。

部品 これまで 使える幅
ブレーキパッド 12万kmで2セット目(今回で3セット目に) 8mm
ブレーキローター 12万kmずっと1枚目 1mm

1mmしか減らせない部品が、パッド2セット分・12万kmを受け止めてきたわけです。

前回の交換時は、まだローターが使える状態だったのでしょう。パッドのみの交換で正解だったはずです。そして今回が、ローターの番だったということです。

目安として覚えておくと便利です

パッド2回の交換につき、ローターも1回——これが多くの車で目安になります。
もちろん実際はローターの状態を測って判断しますが、「前回パッドだけ換えた」なら、次はローターも見てもらうと考えておくと、今回のような場面で納得しやすくなります。

もし今回もパッドだけを交換していたら、次にパッドが減る頃にはローターは完全に限度を割っていたはずです。そのときは選択の余地なく交換、しかも状態によってはパッドも巻き込みます。

「ローターを換えるなら、パッドも一緒に」が正しい

ここまでを整理します。

ローターは交換が必要。パッドはまだ4mm残っている。

この状況で、ローターだけ新品にしてパッドを流用したらどうなるでしょうか。

新品のローターに、6mm削れて表面が馴染んだ古いパッドを当てることになります。当たり面の形が合わないので、本来の効きが出るまで時間がかかり、片当たりや鳴きの原因にもなります。せっかく新品にしたローターに、古いパッドの当たり癖を移してしまうわけです。

加えて、工賃の問題があります。ブレーキローターを交換する作業は、キャリパーを外し、パッドも外す工程を通ります。パッド交換の作業は、ローター交換の作業に完全に含まれているんです。

つまり、いま一緒に換えれば追加の工賃はほぼかかりません。逆に、パッドを流用して1年後に「やっぱりパッドも」となれば、同じ工程をもう一度やることになります。

アルトHA36S用 ブレーキパッド+ローターセット

今回のように同時交換する場合、車種専用のセット商品を選ぶと部品を揃えやすくなります。

⚠️ 同じHA36Sでも、NA車とターボ車(アルトワークス/ターボRS)では品番が違います。上のセットはNA車向け(KS71148-4083)で、ターボ系は別品番(KS71058-4049)になります。フロントブレーキが12インチ(ソリッド・厚さ10mm)か13インチ(ベンチレーテッド・厚さ17mm)かで分かれるためです。注文前に必ず車台番号で適合を確認してください。

今回の判断を一言でいうと

「パッドが4mmだから交換した」のではありません。
「ローターを交換する必要があったから、パッドも同時に交換した」のです。
順番が逆だと、ただの過剰整備に見えてしまいます。

整備工場から交換を勧められたとき、「パッドだけの話なのか、ローターも含む話なのか」を確認してください。ローターの状態が理由なら、パッドの同時交換には十分な理由があります。

残量が半分を切ったパッドで起きること

もうひとつ、現場で感じていることをお伝えします。

パッドの残量が半分を切ったあたりから、ブレーキ鳴きの相談が増えます。今回のアルトも、新品10mmに対して4mm=半分を下回っていました。

これには理由があります。

パッドの中身は一枚板ではない

ブレーキパッドは「金属の裏板」と「摩擦材」でできています。ここまでは多くの方がご存じだと思います。

ただ、摩擦材はただのブロックではありません。ディクセルの解説によると、パッドには断熱層が設けられていて、摩擦材で発生した熱が裏板やピストンを通ってブレーキフルードに伝わるのを防いでいます。そしてこの断熱層は接着層の保護も担っています

ここが重要です。パッドが摩耗するということは、熱から守ってくれている層が薄くなっていくということでもあります。

薄くなったパッドでは、

・摩擦面で生まれた熱が裏板やピストンに伝わりやすくなる
・ブレーキフルードの温度が上がりやすくなる
・接着層が受ける熱の負担が増える
・パッド自体の剛性や振動の出方が変わり、鳴きが出やすくなる

といったことが起きやすくなります。ブレーキ鳴きはパッドとローターの間に生じる振動が原因ですから、パッドの厚みが変われば振動の出方も変わるわけです。

💡 だからこそ、ディクセルは「残り1/3になったら早めに交換」を推奨しています。新品10mmのパッドなら、3mm台がその目安です。限度値2mmまで粘るのが前提ではない、ということですね。

摩擦材の剥離について(正確なところ)

古いブレーキで、摩擦材が裏板から剥がれてしまうことがあります。剥離と呼ばれる現象です。

この点について、誤解のないように正確に書いておきます。

剥離は「残量が少ないから起きる」とは限りません。現役整備士の報告では、30年落ちの車でブレーキシューの厚みが十分残っていたにもかかわらず、4枚すべてが剥がれていた事例があります。

剥離の主な要因は経年による接着の劣化、そして長期間動かさないことによる張り付きや錆です。年数が経った車ほど注意が必要で、残量だけを見て安心はできません。

そのうえで、パッドが薄くなることは接着層が受ける熱の負担を増やす方向に働きます。残量が減ること自体が直ちに剥離を招くわけではありませんが、古い車で残量も少ないという条件が重なれば、リスクは足し算になります。

⚠️ 長く乗らない車ほど、ブレーキは点検してください。走行距離が少ない=ブレーキが減っていない、は正しいのですが、年数の影響は距離とは無関係に進みます。「あまり乗っていないから大丈夫」がいちばん危ない考え方です。

車検はパッド残量では合否が決まらない

ここで、多くの方が誤解している点に触れておきます。

車検には「ブレーキパッドが何mm残っていること」という数値の基準はありません。検査で見られるのは制動力(ブレーキの効き)で、テスターの数値が基準を満たしていれば合格します。

ですから理屈のうえでは、パッドが少なくても効きが出ていれば車検は通ります。

ではなぜ整備工場は交換を勧めるのか。車検は「今この瞬間」の検査だからです。

次の車検までは2年あります。その2年のあいだ、あなたはブレーキを何万回踏むでしょうか。工場が見ているのは合格ラインではなく、次の車検まで安心して乗れるかです。

「今回は通りますが、次までは持ちません」という説明は、水増しではなく2年先を見た整備の話をしています。

▶ 車検の合否がどう決まるかは、元検査員の立場からこちらにまとめています
車検で落ちる本当の理由 15選|元検査員・1級整備士が本音で解説

逆に、限界まで放置するとこうなる

「まだ使える」を突き詰めるとどうなるか。実例があります。

別の車両(ホンダ N-BOX)では、パッドの摩擦材が完全に無くなって0mm、金属の裏板がローターを直接削っている状態で入庫しました。当然ローターも交換になり、費用は跳ね上がりました。

今回のアルトと、そのN-BOX。同じ「パッド+ローター交換」でも、入口がまったく違います。

  今回のアルト N-BOXの事例
きっかけ 車検の点検で発見 異音が出てから来店
パッド残量 4mm(限度の2倍) 0mm(限度割れ)
ローター 錆と段差で交換 裏板に削られて交換必須
選択の余地 あった(時期を選べた) なかった

結果として同じ作業をするなら、自分で時期を選べるうちに換えるほうが得です。壊れてからでは選択肢がありません。

▶ 「まだ使える」を突き詰めた結果はこちら。異音を放置した実車の写真付きです
ブレーキのキーキー音が消えたら要注意|N-BOX実車0mm

アルトHA36Sの実作業|ローターの外し方にコツがある

ここからは実際の作業です。DIYを考えている方は、規定トルクと注意点を必ず確認してください。

固着したローターはボルトで押し出す

長く乗った車のブレーキローターは、ハブに固着してまず手では外れません。叩いて外そうとする方がいますが、ハブベアリングを傷める危険があります

HA36Sのローターには、サービスホール(ねじ穴)が用意されています。ここにボルトをねじ込んでいくと、ボルトの先端がハブを押して、ローターが浮いてくる仕組みです。

アルトHA36Sのブレーキローターをサービスホールに入れたM8ボルトで押し出して取り外している状態
サービスホールにM8ボルトをねじ込んで押し出します。この車は12インチ仕様なので1本

整備書は、使うボルトのサイズと本数まで指定しています。

仕様 使うボルト
12インチ ソリッドディスク M8ボルト 1本を締め付けながら取り外す
13インチ ベンチレーテッドディスク M8ボルト 2本を均等に締め付けながら取り外す

13インチで2本を「均等に」と指定されているのは、片側だけ押すとローターが傾いて余計に噛み込むからです。少しずつ交互に締めていくのが正解です。

⚠️ サービスホールに使うボルトは強度のあるものを選んでください。柔らかいボルトだとネジ山が潰れます。またサービスホールのネジ山を傷めないよう、まっすぐねじ込むことも大切です。固着がひどい場合は、浸透潤滑剤を吹いて時間をおくと外れやすくなります。

キャリパーは必ず吊る

アルトHA36Sから取り外したブレーキキャリパのキャリア部(キャリパーサポート)
取り外したキャリパのキャリア部。パッドが載る面は清掃してから組み付けます

整備書は、キャリパーの取り扱いについてはっきり注意しています。

「フロントブレーキキャリパを取り外すときは、重量があるためフロントブレーキフレキシブルホースを引っ張り、損傷させる可能性がある。取り外したブレーキキャリパは針金などで吊るすこと。」

ブレーキホースは油圧を受け持つ部品です。ここが傷めばブレーキが効かなくなります。ぶら下げたまま作業しないでください。

あわせて、パッドを脱着するときの注意も明記されています。

フレキシブルホースをねじらないこと
ブレーキペダルを踏まないこと(ピストンが飛び出す恐れがあります)

新品パッドはTOKICO製

アルトHA36S用の新品フロントブレーキパッド。TOKICO 794M・MADE IN JAPANの刻印が見える
今回使用した新品パッド。TOKICO 794M・MADE IN JAPANの刻印があります

今回使ったのはTOKICO 794M。裏板に品番と「MADE IN JAPAN」が刻印されています。

写真の上側のパッドに、金属の小さな爪が付いているのが見えるでしょうか。これがウェアインジケーターです。パッドが減るとこの爪がローターに当たり、「キーキー」という音で交換時期を知らせます。

⚠️ 整備書は「キャリパのピストン側ブレーキパッドのウェアインジケータを上側にして取り付ける」と向きを指定しています。逆に組むと警告が正しく働きません。この向き指定はホンダ車の整備書にもあり、メーカーを問わず共通の考え方です。

もうひとつ、HA36Sで見落としやすいのがアンチノイズシムです。整備書ではパッド側とブレーキピストン側の2箇所に取り付ける指示になっています。鳴き止めの部品なので、組み忘れると鳴きの原因になります。

新品ローターは防錆塗料を落としてから

アルトHA36Sに新品のフロントブレーキローターを取り付けた状態。ハブの合わせ面を清掃してある
新品ローターを装着。防錆塗料を落とし、ハブの合わせ面も清掃しています

新品のブレーキローターには保管用の防錆剤が塗られています。ブレーキクリーナーで落としてから組み付けます。落とさずに組むと初期の効きが出ません。

もうひとつ大事なのがハブとローターの合わせ面の清掃です。ここに錆や異物が挟まると、ローターがまっすぐ付かず、回転したときに振れが出ます。

整備書はローターの振れの限度値を0.10mmと定めています(外周より約15mm内側で測定)。0.1mmというのは髪の毛1本ほどの世界です。合わせ面に錆のかけらが1つ挟まるだけで、この基準は簡単に超えてしまいます。

これがジャダー(ブレーキを踏むとハンドルが震える現象)の原因になります。新品に換えたのに振動が出る場合、この清掃不足を疑ってください。

規定トルクで締め付ける

アルトHA36Sの新品ローターとキャリパを組み付けた状態
組み付け完了。規定トルクで締めて、最後に作動確認をします

HA36Sのフロントブレーキで、整備書が本文で明記している締付トルクは次の2つです。

部位 締付トルク どこの部分か
キャリパピンボルト 26 N·m キャリパのシリンダ部をキャリア部に留めるボルト
ブレーキキャリパボルト 85 N·m キャリア部をステアリングナックルに留めるボルト

26N·mと85N·m。3倍以上の差があります。同じブレーキまわりでも、部位によって必要な締め付けはまったく違います。感覚で締めると、どちらかを必ず間違えます。

85N·mまで測れるトルクレンチ

ブレーキキャリパボルトの85N·mを正しく締めるには、1/2sq(差込角12.7mm)のトルクレンチが必要です。20〜140N·mの範囲があれば、軽自動車のホイールナットにもそのまま使えます。

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感想(1件)

ブレーキは安全に直結する部分です。感覚で締めず、必ず規定値で管理してください。

⚠️ 車種が違えばトルクも違います。たとえばホンダN-BOX(JF2)はキャリパ側が23〜27N·m、ブラケット側が108N·m。アルトの85N·mとは20N·m以上違います。「軽自動車だから」でまとめず、必ず自分の車の整備書の値を使ってください。

整備書が禁止していること

DIYの解説でよく見かける作業のうち、メーカーがはっきり禁止しているものがあります。

ブレーキパッドをサンドペーパーで磨いてはいけない

整備書の原文:「ブレーキパッドライニングをサンドペーパで磨くと、サンドペーパの粒子がライニングに付着し、ブレーキディスクを損傷させる可能性がある。ブレーキパッドライニングをサンドペーパで磨かないこと。ブレーキパッドライニングに不具合がある場合は、ブレーキパッドを新品と交換すること。」

鳴き対策としてパッドの表面をペーパーで磨いたり、面取りをしたりという方法が紹介されているのを見かけます。ですがメーカーは明確に否定しています。研磨紙の粒子が摩擦材に残り、その粒子がローターを削るからです。

パッドに問題があるなら、磨くのではなく交換する。これが整備書の答えです。

結局、何mmで交換すればいいのか

ここまでの内容をふまえて、判断の目安をまとめます。

残量 状態 どうするか
7mm以上 余裕あり そのまま。点検時に見ておく
5〜6mm 半分前後 次の車検で交換を検討する時期
3〜4mm メーカー推奨ラインに接近
(新品10mmの1/3=約3.3mm)
交換を計画する。ローターの状態も一緒に見る
2mm前後 限度値 交換。粘らない
キーキー音が出た インジケーターが接触 すぐ点検へ

⚠️ この数字はアルトHA36S(新品10mm・限度2mm)を基準にしたものです。基準値も限度値も車種で違います。たとえばホンダN-BOX(JF2)は新品8.5mmまたは9.5mm、限度1.6mm。「軽自動車は◯mm」という共通の数字はありません。自分の車の整備書の値で判断してください。

残量だけで決めない

最後に、いちばん大事なことをもう一度。

パッドの残量は、判断材料のひとつでしかありません。

今回のアルトがまさにそれで、パッドは4mmあってもローターの状態が交換を必要としていました。逆に、パッドが3mmでもローターがきれいなら、パッドだけ交換して次に進めます。

見るべきものは、

・パッドの残量(内側と外側の両方。片減りしていないか
・ローターの厚さと段差、錆
・ローターの振れ
・スライドピンの動き
・車の年式(古い車は残量に関係なく劣化する)

これらを合わせて判断します。数字ひとつで機械的に決まるものではありません。整備工場が「見てみないと分かりません」と言うのは、ごまかしではなく本当のことです。

自分でパッド残量を確認する方法

「工場に言われるまで分からない」では不安だと思います。ある程度は自分でも確認できます。

ホイールの隙間から覗く

いちばん手軽な方法です。スポークタイプのホイールなら、隙間からブレーキキャリパーとローターが見えます。

探すのは、キャリパーとローターに挟まれた板状の部品です。これがブレーキパッド。ローターに接している摩擦材の厚みを見ます。

暗くて見えにくいので、スマホのライトを当てるとよく分かります。スマホを差し込んで写真を撮り、拡大して見るのも有効です。

見るときの3つの注意点

1. 見えているのは外側のパッドだけ
ホイール越しに見えるのは、たいてい外側(アウター)のパッドです。内側は見えません。そして内側と外側で減り方が違うことは珍しくありません。片側だけ見て「まだある」と判断するのは危険です。

2. 裏板の厚みを数えない
パッドは「金属の裏板」+「摩擦材」でできています。残量として数えるのは摩擦材だけです。裏板を含めて見ると、実際より2倍近く厚く見えてしまいます。整備書も「バッキングプレートを厚さに含めない」と明記しています。

3. 走行直後は触らない
ブレーキまわりは走行後に高温になります。覗くのは構いませんが、手で触れないでください。十分に冷えてから確認しましょう。

⚠️ 目視は「まだ十分あるか」を確認する用途には使えますが、「大丈夫」と断定する根拠にはなりません。内側が見えない以上、正確に知るにはホイールを外しての点検が必要です。減っていそうだと感じたら、点検を受けてください。

整備工場で聞くべきこと

点検を受けたとき、こう聞いてみてください。

「パッドは内側と外側で何mmずつですか」(片減りの有無が分かります)
「ローターの厚みと段差はどうですか」(同時交換の要否が分かります)
「あとどれくらい走れそうですか」(交換時期の計画が立てられます)

きちんと点検している工場なら、どれも即答できます。数字で答えが返ってくるかどうかが、その工場を見極める材料にもなります。

よくある質問

Q. ローターは研磨して再使用できないの?

できる場合もありますが、今回のように摩耗代が1mmしかない車種では現実的ではありません。

研磨は表面を削って平らにする作業なので、必ず薄くなります。新品10mm・限度9mmという条件では、削れる余地がほとんどありません。段差や錆を取り切るまで削ると、限度値を割ってしまいます。

ローターが厚い車種(ベンチレーテッドタイプなど)であれば、研磨で対応できるケースもあります。

Q. 前と後ろ、同時に交換すべき?

同時である必要はありません。前後で減り方が違うからです。

ブレーキは前輪の負担が大きい設計になっているため、一般的にフロントが先に減ります。今回のアルトもフロントのみの交換です。

ただし左右は必ずセットで交換してください。整備書も「1台分セットで交換」と繰り返し指示しています。左右で効きに差が出ると、まっすぐ止まらなくなる可能性があります。

Q. 交換した直後に鳴くのはなぜ?

新品のパッドとローターは、当たり面がまだ馴染んでいません。接触が均一になるまでは、鳴きや効きの甘さが出ることがあります。

しばらく走ると当たりが付いて落ち着くのが普通です。ただし、いつまでも鳴きが止まらない場合や、明らかに効きが悪い場合は、組み付けを確認してもらってください。アンチノイズシムの組み忘れや、パッドの向き(ウェアインジケーターの位置)が原因のこともあります。

Q. 交換後に慣らしは必要?

交換直後は急ブレーキを避け、穏やかな運転で当たりを付けていくのが基本です。

そして何より、走り出す前にブレーキペダルを数回踏んでください。パッド交換ではピストンを押し戻すため、そのままだと最初の一踏みでブレーキが効きません。ペダルがしっかり硬くなるまで踏んでから発進します。

Q. 社外品のパッドでも大丈夫?

信頼できるメーカーの製品なら問題ありません。今回使用したTOKICOも社外ブランドです(日本製)。

注意したいのは、極端に安価な製品です。ウェアインジケーターが付いていないものがあり、交換時期を音で知らせてくれません。また、用途に合わない材質を選ぶと、冷えているときに効かない、ダストが多いといった不満につながります。

Q. アルトHA36Sで他に気をつける整備は?

同じHA36Sでは、エアコンのエバポレーターに関する事例も扱っています。年式によっては保証の対象になるケースがあるので、あわせて確認しておくと安心です。

DIYで作業する前に

ブレーキパッドの交換は、DIYでも人気のある整備です。ただ、始める前に知っておいてほしいことがあります。

法律上の位置づけ

国土交通省の通達では、ディスクブレーキ関係のうち「ブレーキキャリパ(ブレーキキャリパの取り外しを伴うブレーキパッドを含む)、シリンダ、ピストン、ブレーキディスク」を取り外して行う整備が、分解整備(特定整備)にあたるとされています。

今回のようにローターまで交換する作業は、これに該当します。

ただし、認証が必要になるのは「事業として」行う場合です。自分の車を自分で整備すること自体は禁止されていません。他人の車を報酬をもらって整備するには認証工場が必要になります。

安全に関わる注意

⚠️ ジャッキだけで車の下に入らないでください。必ずリジッドラック(ウマ)をかけ、車体を揺すって安定を確認してから作業してください。

⚠️ ブレーキフルードが塗装面や床に付いたら、すぐに水道水で洗い流してください。整備書にも明記されている注意点です。塗装を侵します。

⚠️ 作業後はブレーキペダルを数回踏んでピストンを押し出し、フルード量を確認してから、安全な場所で低速のテストをしてください。整備書も「取付け完了後、ブレーキシステムが正常に作動するかを確認する」と締めくくっています。

不安があれば、迷わずプロに任せてください。ブレーキは止まるための装置です。

まとめ

1. アルトHA36Sのパッドは新品10mm・限度2mm。今回の4mmは限度の2倍で「まだ使える」
2. ただし今回は2回目のパッド。1セット約6万kmのペースなら、残り2mmはあと2万km=次の車検でちょうど限界
3. 交換の決め手はローター側(外側の錆と外周の段差)
4. ローターの摩耗代は1mmしかない(新品10mm・限度9mm)=パッドの8mmとは桁が違う
5. パッドは2セット目、ローターは12万km1枚目。今回が「ローターの番」だった
6. 目安はパッド2回につきローター1回。「前回パッドだけ換えた」なら次はローターも見る
7. ローターを外す作業にはパッド交換が含まれる=同時交換なら追加工賃はほぼ不要
8. メーカーは残り1/3での交換を推奨。摩耗は後半ほど早くなる
9. パッドが薄くなると断熱層が減り、鳴きや熱の影響が出やすくなる
10. 摩擦材の剥離は経年の影響が大きい。残量が十分でも古い車は注意
11. 車検にパッド残量の数値基準はない。工場は次の車検までの2年を見ている
12. 基準値・限度値・締付トルクは車種ごとに違う。自分の車の整備書で確認する

「まだ使えるのに交換を勧められた」と感じたときは、ローターの状態を聞いてみてください。「ローターの厚みはどうですか」「段差や錆はどうですか」と。

きちんとした工場なら、その場で答えられます。そして多くの場合、パッドの残量だけでは説明できない理由がそこにあります。

ブレーキは、走るための部品ではなく止まるための部品です。迷ったら、安全側に倒してください。

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この記事を書いた人

整備士 nao(ナオ)

1級自動車整備士・元自動車検査員|整備歴15年。ディーラーで整備士から自動車検査員までを経験し、現在は民間整備工場で日々現場作業を続けています。「家族にすすめられる整備情報だけを発信する」がモットー。
国家1級整備士
元自動車検査員
整備歴15年

本記事の内容は整備マニュアル・メーカーサービス情報・現場経験に基づき執筆。プロメンテ(sps-nk.com)では実車写真と動画を交えた一次情報を発信しています。

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